幹部のスカウトには「職務記述書」をつくろう
企業の人材力とは、“働き盛りの30歳?45歳の幹部人材の粒”のことです。もちろん、それは生え抜きの幹部が望ましく、はやり10年以上勤務をしている幹部ということになります。苦戦している中小企業では明らかにその層の幹部やそれと同等の専門職が不足しています。だから、幹部クラスを外部から調達せざるを得なくなるのですが、中小企業の場合、その幹部人材の中途採用は、90%の確立で失敗しているように思われます。そこで、私はオーナー中小企業が幹部人材の中途採用・スカウトで失敗することを少しでも防ぐために「職務記述書」を作成することを提案したい。
幹部人材採用で失敗したA社
A社は従業員90名の製造卸売業。社長の強烈なリーダーシップにより、ここ数年で急成長を遂げました。管理職が実施いなかったため、社長は友人を通じて某大手企業のBさん(53歳)に声をかけ、営業本部長として迎え入れました。それから半年が過ぎました。社長はBさんの扱いに困っていました。Bさんと社長の関係、Bさんと社内の幹部との関係がシックリいかないのです。社長がBさんに要求していたのは、若手を連れて実践現場で指導しながら新規開拓をしてほしいーというものでした。しかし、Bさんは数十年大手企業に勤務していたため、その感覚はすこぶる大企業的でした。Bさんはドカッと椅子に腰をかけて一歩も動こうとしません。若手の営業マンに対しては口だけで指導しようとしました。Bさんの得意分野は、「顧客のABC分析」と「営業日報による指導」でした。専用の様式を複数作成し、そこに「訪問予定、訪問時間、提案内容、営業実績等」を記入させて“管理”を徹底的に行いました。
Bさんはオーナー社長のワンマン体制や考え方がなかなか理解できないでいました。大変頭の良い人でその指摘はもっともなのですが、物事は一向に進みません。Bさんの会社に対しての意見は以下のようなものでした。
組織がない、役割分担が不明確だ
社長の方針が論理的でないのでわかりにくい
社長がワンマンすぎる、これでは従業員がついていかない
取締役会を開かないのはおかしい
労働時間が長すぎるのでもっと短縮すべきだ、これでは従業員がかわいそうだ
部下の能力がすこぶる低い、もっと良質な人を採用してほしい
IT化が遅れているのでもっと積極的に投資すべきだ 等々
社長とBさんはどんどんコミュミケーションが無くなり、ホンネで話すことがなくなっていきました。そうこうしているうちにBさんは入社8ヵ月目に辞表を出してきました。
大企業と中小企業の幹部能力はその性質が違う
大手企業と中小企業、特にオーナー中小企業では、幹部に求められる能力・働き方まったく違うのです。大企業の幹部は、機能的なライン組織を通して、明確な指示を出し、実行を管理するのが仕事です。幹部がアレもコレもやっていては組織が逆に混乱してしまいます。また、大企業では人事部や経営企画室などのスタッフ部門が、時間をかけて選りすぐりの人材を採用し、ある程度の教育をほどこして自部署に配属してくれます。
一方、中業企業の幹部は自ら現場に出て率先垂範で働く、いあゆる「プレーイングマネージャー」です。また、組織も機能的になっていない場合が多く、指揮命令系統が錯綜していることがあります。また、多くの従業員が一人3役、4役こなしているという現実もあります。さらに、人事部がないので、採用面接から解雇にまでたずさわらなければなりません。教育も現場教育(OJT)のみといっても過言ではありません。また、人材の質も大企業からみたら見劣りするかもしれません。
職務記述書をつくろう
大企業や銀行などまったく違うカルチャーで生きてきた人を採用する場合は、まず第一は社長がその働き方の違いを明確に認識し、何を要求するのかを明確にすることが重要です。そのためのツールが職務記述書です。職務記述書とは欧米では一般的に活用されている人事管理ツールで、「ジョブディスクリプション」と言われるものです。その人に要求する職務内容が明記されています。よく職務記述書を作ってしまえば、職務内容以外のことを柔軟に対応してくれないのではないかと危惧する向きもありますが、そういうことはありません。優先順位が高いものは柔軟に対応してくれと頼めばいいことです。特に全く違うカルチャーで育った「幹部候補生」に対して、社長の考え方、やり方や要求することを書面で明示されていないほうの弊害が大きいと私は考えます。
オーナー企業は「オーナー社長とウマが合うか」で決まる
中小企業の労務コンサルをやっていると、つくづく、オーナー社長の人生観、人間観、幸福感など価値観で企業経営の舵取りがすべて決まることを実感します。いかにロジカルなものでも社長がノーと言えばノーです。「社長=法律」です。それに耐えることのできる能力(ストレス耐性)、矛盾を抱えながら前向きに物事を進める能力がなければ、オーナー企業の幹部は務まりません。幹部スカウトのときに、リップサービスはほどほどにして、社長はホンネをまずぶつけることです。
「関白宣言」という歌がありました。さだまさしさんの作詞・作曲です。オーナー企業が幹部をスカウトするにはあれぐらいのセンスが必要です。「お前を嫁(幹部)として雇う前に、言っておきたいことがある。かなり厳しい話もするが、俺のホンネを聴いておけ」と徹底的に要求をしておきながら、自分(社長)と一丸となってガンバってくれれば悪いようにはしないという心意気です。
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