パートの社会保険未加入リスク対策
1.非正社員の社会保険未加入リスク
この数年、国は年間労働時間1800時間を目指した時短政策を行ってきました。年間労働時間は1800時間という目標はまだ達成されていないものの、トータルの労働時間は確実に減少しています。しかし、問題はその中身です。結果として起こったことは、正社員を減らして、安価なパートや派遣社員に置き換えることに必死になりました。非正社員(パート、アルバイト、派遣社員、請負等)の数は年々増加の一途をたどっています。現在、労働者の割合で言えば、正社員と非正社員の割合は2:1ですが、近い将来は1:1になると予想されています。
非正社員の数が年々増加するにつれて、税金や社会保険の徴収が難しくなっていますので、“加入要件の厳格化”と“徴収作業の強化”は必至です。この対策を怠ると、未加入者の保険料を2年分遡って、一括で請求され(数千万円に及ぶ)、企業は大きなペナルティーを受けることになります。
2.会計検査院の調査は恐ろしい
会計検査院とは、役所の仕事が適切に行われているかどうかをチェックする機関です。つまり、「役所を監督する役所」です。その権限は絶大なものがあります。社会保険財政が危機的な状態ですので、会計検査院は、ここ数年、社会保険の未加入者を摘発する事業に力を入れています。
その会計検査院の調査は、社会保険事務所単独の調査とまったくその性質を異にします。ほとんどの会社は、1度や2度、社会保険事務所に呼ばれてタイムカードや賃金台帳を持参して調査を受けたことがあると思います。社会保険事務所単独の調査は「今後改善する」ということが比較的受け入れら得る雰囲気ではなかったでしょうかー。しかし、会計検査院の調査は「今後改善する」ということは全く通用しません。タイムカードや出勤簿だけを見て社会保険未加入のパートタイマーが入れば、容赦なく2年分遡って一括で保険料を払わされます。泣き脅しは一切通用しない、冷徹な法的世界です。また、雇用契約書がなければ、タイムカードの時間だけを見ますので、「疑わしきは罰する」の姿勢で調査が行われます。たまたま長時間になった人であってもグレーゾーンにある人は、加入させられる可能性が大です。
3.会計検査院に摘発されるとこうなる
賃金が月15万円のフルタイムパートが5名
賃金が月20万円で60歳以上65歳未満のフルタイムパートが5名
これらの従業員が社会保険に加入の義務がありながら、未加入だったとすると労使双方で負担する2年分の社会保険料の合計は1140万円に達します。問題は従業員負担の分を遡って会社が徴収できるだろうかーということです。追加で徴収しなければならない従業員負担分は、パート1人当たり49万円程度、高齢パートで1人当たり65万円程度となり、従業員に後から負担させるには大変難しい金額となります。結果として、会社が全額負担することになるのです。
同時に、高齢パートで年金の支給を受けていたケースでは、支給額の算定がしなおされることになり、過剰に受けていた年金は過去2年分について返還命令を受けることになります。
4.会計検査院に狙われる会社は?
会計検査院も調査の費用対効果を考えています。彼らの狙いは“パートの社保未加入者の摘発”です。だから、メーカー、卸売業にはほとんど入らないようです。メーカーの労務管理は他の業種と比べてシッカリしており比較的未加入が少ないのです。卸売業はパートタイマーが比較的少ない業種です。狙われる会社はおおむね以下のとおりです。
@ フルタイムパートが多数いそうな業種
A 60歳〜65歳未満のフルタイムパートがいそうな業種
そうです。会計検査院は業界を狙い撃ちしてやってきます。狙われる業界は、飲食業、小売業、ビルメンテナンス業、美容業、クリーニング業等のサービス業です。
あのディズニーランド(オリエンタルランド)も数年前、会計検査院の調査でパート(キャスト)の社会保険未加入を摘発され、数億円を支払ったことがあります。夢と魔法の王国も会計検査院の前ではどうしようもありません‥。
5.社会保険加入要件をあらためて押さえよう
パートの社会保険は「1日の所定労働時間及び1ヵ月あたりの労働日数が、正社員のそれと比べて、ともに、おおむね4分の3以上になると加入義務がある」(4分の3ルール)とされています。
1日の労働時間が8時間なら6時間以上、月間21日勤務なら15日以上勤務をしていたら、加入となります。会社によって所定労働時間が違うので、格差は若干ありますが「週30時間以上の勤務は社会保険加入」と覚えておくと良いでしょう。
あくまで、加入要件は時間と出勤日数だけですから、その人が受け取る所得とは関係がありません。103万円や130万円は扶養の範囲であって、加入要件とは全く関係がないのです。
6.福田秀樹はオーナー企業様に次のように対策することをお勧めします。
◎定着している長期パートは加入をさせよう(対策その@)
2009年には、社会保険の加入要件がさらに厳しくなり、週20時間以上勤務していたら、社会保険に強制加入という法律が国会で通りそうです。本来、2004年の厚生年金保険法改正時に施行される予定でしたが、小売業界や飲食業界から猛烈な反発があり、いつものように“先送り”になりました。
2009年まではまだ4年ありますが、私は正社員と同様に勤務するフルタイムパートは加入をさせなくてはならない時代になってきたと考えます。出入りの激しい業界であれば、すぐに加入をさせることは難しいかもしれませんが、ある程度、様子を見た後、定着していくパートであれば遅かれ早かれ加入をさせていくべきです。
アレコレ理由をつけて、加入を拒否する人はいらっしゃいますが、結局、最後に法違反のババを引くのは会社です。よくお客様から、「本人が加入を嫌がっているのにどうしたら良いのか?」と言われることがありますが、その理屈は税金の源泉徴収義務と同様で、結局、天引きしていない会社の責任になるのです。
◎店長(管理職)に労務管理の教育をしよう(対策そのA)
飲食店は小売店は多店舗展開型の業種です。中小企業では総務部門の人手が足らないので、店舗の採用から退職までは、現場の店長に任せていることが通常です。本社の事務担当は「結果」を聞いてその処理を行っているだけというのが現状ではないでしょうか。しかし、問題は、現場の店長が労務管理や社会保険の知識などはほとんど関心を持っていないので、“野放し状態”になっているということです。特に限られた人件費で店舗を運営していくためには、しっかりとした労務管理知識を持って、シフト表を組まなければなりません。上記の「4分の3ルール」程度は店長が最低限知っておくべき労務の知識です。
一度、社内の社保未加入者の調査と原則論の徹底をしてみましょう。
参考資料「パートに関する方針徹底書」参照
◎パートにも雇用契約書を締結しよう(対策そのB)
雇用契約書で所定労働時間(原則的な労働時間)の明示がなければ、タイムカードだけで判断されます。繁忙によって勤務時間が変動するのがパートの勤務形態ですので、1日又は1週何時間が原則的な勤務時間なのかを反証する資料がなければ、調査のときに抗弁ができないのです。
また、長期のパートの場合、“いつのまにか”大きな戦力となり、時間が大幅に増えてしまったということはよくあることです。そのためにも雇用契約書に以下のように記載をしておくことです。
「パートタイマーは、1日の労働時間および1ヶ月の勤務日数が正社員のおおむね4分の3以上になると厚生年金、健康保険が強制加入になります」
1年ごとに雇用契約書を更新し、このような記載があれば、万一、調査で加入漏れの指摘があった場合であっても本人に負担を求めることができると思います。
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