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警告書・始末書の心と技とシステム
─問題社員を解雇する前にやるべきこと─

 

私は労務問題の起こるメカニズムをいつも側で見る立場にあります。何社も何社も起こった労務問題の火消しをやっていると、問題が起きる会社には共通項があることに気づきます。それは、“管理職不在”です。もちろん、どんな会社、部署、支店、営業所にも“管理職”は組織図上、存在しています。しかし、事実上、驚くほど管理をしていない。その下で働く社員は放任され、迎合されているので「これでいいんだ」と勘違いをしています。日々、大小さまざまな方針違反、ルール違反が起きていますが、その管理職はしっかりと注意や叱責をしません。ある日、事が大きくなって社長の耳に入ります。「そんな奴は我が社には不要だ!辞めさせろ!」となります。しかし、その部下(本人)は「こんなに頑張っているのに私の何がいけないのだ!血も涙もない会社だ!」と激怒し、法的に訴えます。裁判所は、指導、注意、叱責のプロセスを踏んでいない会社の落ち度を認め、解雇を無効としてしまうのです。そこで私は、このような事態を避けるために、指導、注意、叱責を確実に行うための考え方と警告書、始末書の書き方を提案し、小さなルール違反を“見逃し三振しない”企業風土をつくりあげることを提案したい。


(ブロークンウィンドウズ理論)
ブロークンウィンドウズ理論(窓割理論)とは、割れた窓の車を放置しておくと、さらに加えて窓が割られる確立が一段と高まるというものです。窓が割られるだけでなく、バッテリーやタイヤなど、どんどん盗まれてしまうそうです。この理論を応用して、ニューヨークは凶悪犯罪の撲滅に大きな成果を上げました。当初、“凶悪犯罪”を直接、巨額の資金を投じて取締まりを強化しましたが、なかなか効果が上がらなかったため、まず「落書きを消す」ということを徹底的に行いました。次に「“軽犯罪”を取締まる」ということを徹底的に行いました。すると、驚いたことに、今まで直接取り締まりを強化しても減少しなかった凶悪犯罪がみるみる減少しはじめたのです。なぜ、凶悪犯罪を減少させることが出来たのでしょうか?それは、@元から断ったこと、Aその場所が“管理されている”と印象付けたこと、にあります。@の元から断った、とは凶悪判罪が起こりやすい場所では軽犯罪が多く起こっていたのです。よく観察してみると、軽犯罪が多く起きる場所というのは、落書きが多く、清掃が行き届いていない場所でした。そこで、落書きを消す→軽犯罪を取締まる、ことで凶悪犯罪の温床を断つことにしたのです。Aのその場所が“管理されている”と印象付けた、とは“誰かがその場所を管理している、誰かが見張っている”という状態を作ることで人間の罪悪感をかきたてたのです。皆さんも放置自転車厳禁とその場所に張り紙があっても、他に多くの自転車がそこに放置されていると罪悪感が薄れ、「ちょっとだけならいいかー」となる気持ちは起こらないでしょうか?

会社内においても、日常の“取締まり”“監視”が行き届いていなければ、社長の知らない“軽犯罪”が多発していることは間違いありません。その軽犯罪の堆積層が、企業存続を揺るがす、重要顧客の失中、社会的な名誉の失墜、損害賠償事件に発展するのです。

(現場のOJTの理解が重要)
OJT(On the Job training)は、一般には「現場教育」と言われています。一般的には、「技能教育」の比重の方が大きいと思われがちですが、私は「躾教育」が60%を占めると思っています。躾部分(姿勢、礼節、活気、向上心など)がしっかりと出来ていれば、自ずと「専門技能」は伸びていくはずです。OJTの本質は次の一言に集約されます。

「OJTとは、
 良いことはこれからも続けよう、
 間違ったことは二度としない、という決意を
 心胆に刻みこませること」
 
つまり、“その場で”本人の“心胆に刻みこませる”ことができるか、が勝負の分かれ目となるのです。口頭で言ってもダメな場合は、個室などへ場所を変えて文書を提示し、部下と真剣に向き合うことが肝要です。

(“軽犯罪”を取締まる「指導→注意→叱責」のプロセス)
労務の現場で痛切に感じるのは、解雇へのプロセスをきっちりと踏んでいないということです。つまり、その場その場できっちりとした労務管理をしていないのです。90%の事例が決定的な解雇事由はないが、とにかく辞めてほしいというケースです。しかし、よほどの非違行為がない限り解雇という手段はとれません。まず、最初は「指導」から始めなくてはいけません。改まらない場合は「注意を喚起」し、それでもダメな場合は「叱責」します。多くの問題はこのプロセスがすっぽりと抜け落ちています。日頃、口頭で注意することは大前提ですが、裁判沙汰になってしまった場合は「指導した」「注意した」「叱責した」ということを“証明”しなくてはならないのです。たとえば、少なくとも1回は文書で警告書や始末書を残しておくことが必要です。注意や叱責で3回は文書で残しておきたいところです。

問題社員ほど感度が鈍い、自分が周囲にどのような悪影響を及ぼしているかを認識していないため、「私は指導や注意を受けた覚えはありません」、「反省の機会もまったく与えられずにいきなりクビにされた!」「私はこんなに頑張っているのに!」など、こちらのほうが頭を抱えたくなる発言をしてくることが普通です。だからこそ、文書で出す、残すことが必要です。問題社員と真剣に向き合うプロセスなしに解雇はできません。


(ステップを踏む)
−@就業規則を整備・理解する−
すべての社員を公平に扱うことが労務の基本です。また、我が社において、これをやってもらったら組織として成り立たないという最低限度のルールをしっかりと盛り込んでおき、現場の管理職がそれを頭に入れて労務管理を実行しなければなりません。就業規則には、会社がやってほしくないことをすべて書いておくことです。たとえば、工場などで、構内をダラダラ歩かれては工場全体に締まりがなくなるので、スピーディーに歩け!なども記載しておくことです。管理職は、このような、「これはやったらダメだ!」という最低基本ラインをよく理解し、その場面に遭遇したら、ヘタでもいいのでバットを振る(注意・叱責する)ことです。就業規則に魂を入れるのは現場の管理職です。

−A警告書を出す−
 口頭での注意がうまくいかない場合、会社(上司)がワープロ打ちの警告書を出します。そして、本人にサインをさせます。文書で警告するに至ったプロセスには、過去2、3度にわたり、指導や注意や叱責を行ってきたんだ!ということを書いておくことです(別添「警告書サンプル(@遅刻常習犯用)」参照)。就業規則に記載がない事柄でも、会社として指導・注意すべきことはどんどん申し渡すことです。

−B始末書を書かせる−
 警告書を1回出しても改まらない場合は、より厳重に始末書を書かせます。就業規則違反はすべて始末書(上記の警告書も同様)の対象になります。


(始末書の作成方法)
始末書とは、究極のコミットメントを要求するものです。カルロスゴーン流に言えば、“出来なかったら腹を切る”決意書です。以下に書き方のコツを示します。

1) こちらが用意した原稿を本人に手で書かせ、署名捺印
問題を起こした本人直筆で書くことがポイントです。なぜ、こちらが原稿を用意するのか?それは問題を起こした本人に書かせると「すみませんでした。もうしません」程度の“反省文”になってしまうからです。始末書には必要な論点があります。〔4)後述〕また、法的な証拠書類として自筆のほうが有効です。

2) すぐその場で書く
問題行動が起きたらすぐその場で書くことです。OJTの本質のとおり、すぐその場で、“間違ったことは二度としないということを心胆に刻み込ませる”ことが重要です。また、問題の処理が先で後からゆっくり本人から事情を聞こう‥では、周囲の人間も含め事実がぼやけてしまいます。

3) 具体的に1事案に1枚に詳細に書く
法的には同じ事案について、二重に処分することは認められていません。たとえば、業務中に酒気帯び運転をして警察に捕まったとします。減給の制裁として賃金をカットしました。さらに後日、処分が甘かったとして懲戒解雇を言い渡すことはできないということです。(二重懲戒の禁止)ですから、処分を記載する始末書には1事案に1枚が望ましいのです。

4) 始末書でハッキリとさせなければならない内容を盛り込む
始末書には以下の要素を盛り込む必要があります。

@ 発生時刻・場所
A 事案の内容(過去の内容があればそれも含む)
B 居合わせた人達・事情を聴取した人達
C 自分に非があることを認めること
D 具体的な責任の取り方
E 再発防止策と今後の発生した場合の責任の取り方

詳しくは別添「始末書サンプル(A遅刻常習犯用B現金横領者用)」参照

(幹部がまず襟を正そう!)
就業規則→警告書→始末書は単なるシステムです。企業風土作りは、社長及び幹部の、“絶対譲れないライン”を維持する心意気にかかっています。サッカーの審判は、自分の判断基準(譲れないライン)を選手に示すために、わざと早い目に「イエローカード(警告書)」を出すことがあります。それは、ゲームを作るためにその審判が発する「俺はこのようなプレーは許さんぞ」という意思表示の現れです。サッカーのイエローカードは危険な行為に対して出されるものですが、企業活動で発する警告の多くは日常的な些細なことです。たとえば、挨拶、返事、掃除、時間厳守、課題の提出など子供に注意するような内容です。そんな些細な内容でも、それを指導・注意・叱責する立場である幹部が200度の温度で実践して、はじめて部下に100度で伝わるのです。エクセレントカンパニー(業績と企業文化がハイレベルで維持されている企業)は、幹部の“絶対譲れないライン”が誠に高いことにあります。あらためて自らを振り返り、経営の舵取りをしてゆきたいものです。

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