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年収300万円時代の報酬システム
─非金銭的報酬で「報われ感」を演出しよう─

 

低成長デフレ時代を迎え、従来型の“お金とポストと終身雇用”をもって動機付けができなくなってきました。頑張っていれば、ある程度の肩書きを得て、給料が上がり、定年まで勤務すればある一定額の退職金が出たのが遠い昔の話のようです。組織は成熟し終えてポストは中年層で溢れかえっています。そのような状況下で、多くの企業が従業員の動機付けに困っているのが現実です。これからは、中小企業においても、金銭的報酬の仕組みと同時に、“自社にピッタリな非金銭的報酬の仕組み”を実行していくことです。非金銭的報酬の考え方のポイントは、損得感情で動く従業員に、いかにお金以外の「報われ感」を演出するかということです。

(人事フレームの変化)
従来は社内の90%が「正規従業員(正社員)」「定期昇給有り」でしたが、現在は大企業・中小企業問わず、2つのことが起こっています。
@ 正規従業員(正社員)をドンドンと非正規従業員(契約社員、パート、派遣社員など)に切り替えている。
A 正規従業員(正社員)の賃金の格差をつけている。

正規従業員から非正規従業員への切り替えにより、年収250万円未満の人が大量発生し、正規従業員の中でも「コアになる(可能性のある)人」「コアにならない人」が二極に分化しはじめています。「コアにならない人」は賃金がある一定のところでストップします。

典型的な人事フレームは以下のようなものです。業種・規模によって異なりますのであくまでも一例としてご覧下さい。

賃金制度改革


(経営者やコンサルタントが作る人事制度の欠陥)
経営者が高いフィーを払って人事コンサルタントに依頼すると、99%はコアとなる人にどう報いるか?どのように上昇志向を持ってもらうか?にスポットあてて人事制度が設計されます。コアとなる人(管理職や企業家)は「勝ち組」で、それ以外は「負け組」の様相を呈しています。経営者や人事コンサルタントは自分達がバリバリの上昇志向の持ち主なのでそれを従業員に押し付けてしまうのです。

しかし、中小企業において、上昇志向を持ってガンガン出世を望む人がどれだけいるでしょうか?上記の人事フレームで言えば、多くて社内の20%です。それ以外は、あえて管理職や企業家を目指さない、いやもっと言えば、管理職なんてイヤだと思っているのではないでしょうかー。

今、本当に必要なのは、コアとならない人、契約従業員、パートタイマーなどの金銭的報酬はそれほど望めない人達がなんら不利にならず、もちろん負け組と後ろ指を指されることなく、彼らもまた充実した職場生活や人生を送れるような、企業や社会がインフラを整備することだと考えます。

(非金銭的「報われ感」の体系)
個人の生きる目的や価値観は、企業における利益のように共通ではありません。他人より多くお金を稼ぎたい、高い地位を得たいという人もいれば、そんなものより家族と一緒の時間こそ大事だ、職場の人間関係や雰囲気が大事だという人もいます。つまり、人が何を重要だと感じ、極大化したいかというのは個人が自由に選択できるのです。金銭的報酬の上昇が望めない層に対しての非金銭的報酬の仕組みをもっと研究していくべきです。

<感謝・承認・賞賛>
どのような人にも共通するものは、「自分の価値を認めてもらいたい、自分を大切にしてほしい」という願望があります。感謝には、従業員の勤労に対する会社・経営側の感謝、すぐれた商品・サービスに対するお客様からの感謝、社内の縁の下の力持ちに対する従業員からの感謝などがあります。どれも「この会社にいて良かった!」という「報われ感」を従業員に感じさせる非金銭的報酬です。GEのジャック・ウェルチが、賞賛すべき仕事をした従業員に直筆の感謝の手紙を送っていたことはあまりにも有名です。感謝を口にする社長は多いですが、実際に行動をおこして感謝を表している社長は少ないのではないでしょうかー。まずは社長・管理職から感謝を行動で示すことが第一ステップです。

第二ステップは「あなたがいて、私は嬉しい」を伝える挨拶です。私の顧問先でも、IT関係や研究開発関係などインテリ職が多くいる会社は挨拶ができていないことが多いです。挨拶なんて仕事とは関係ないと思っているのでしょうかー。しかし、それはこれからの報酬マネジメント・組織マネジメントにおいては致命傷になります。存在を認め合うことは心理的な報酬です。いわゆる「承認」です。すれ違っても挨拶をしないというのは、相手が目の前にいてもいないのと同じです。それでは組織とは呼べませんし、その会社に組織力は存在しないことになります。また、報酬体系の一つの「組織文化・対人関係」とも関連します。「楽しく働ける組織文化」という非金銭的報酬です。ここのような組織文化を持っている会社は顧客サービスが自然と向上していきます。これからは挨拶と笑顔が溢れる職場を創ることが経営課題となります。

表彰制度というのは、第三ステップです。複数の会社をお手伝いしましたが、表彰制度は応用問題だと感じます。感謝や賞賛はできるだけ日常の場面において、その場でタイムリーに、自然な感情の発露として行うのが良いでしょう。人の心の機微に直接触れますので、とてもデリケートです。それを制度にするわけですから周到な準備とデリケートな設計が求められます。社長、幹部がまず率先垂範で感謝・認知を表現できるようになってから制度化することをお勧めします。

<期待>
感謝・認知の後には「期待」を表現します。「期待」は人間の可能性を引き出す素晴らしい報酬です。「期待」が人を動かすことを教えてくれる私が好きな一節があります。イギリスの劇作家ジョージ・バーナード・ショウの戯曲『ピグマリオン』のなかで、イライザ・ドゥーリトルは以下のように言います。

「おわかりでしょう。(ドレスの着こなしや話し方など)習ったり、覚えたりできることは別として、本当のところ、レディと花売り娘との違いは、どう振る舞うかではなく、どう扱われるかにあるんです。ヒギンズ先生にとっては、あたしはいつまで経っても花売り娘なんです。先生はいつだってあたしを花売り娘として扱っていらっしゃるし、これからもずっとそのおつもりなんです。しかし、あなたの前では、あたしはレディでいられるんです。なぜなら、いつもレディとして扱って下さるし、これからもそうでしょうから」

一人の人間の期待が他人の行動に影響力を及ぼすということは、あらゆる実験で実証されているようです。従業員は、自分に期待されていると感じていることしかやりません。社長・幹部が、従業員に「高い成果を達成できる」という期待し、また、期待感を抱かせることができれば、生産性が向上するということです。「期待」はやる気を喚起するうえでこれ以上ない非金銭的報酬ではないでしょうか。

<オンとオフのバランス>
私はこれから、企業家や管理職をめざす上昇志向の従業員は減少し、自分らしさを自分のライフスタイルを大切にするオンとオフのバランスをとることへのニーズがますます強まると思っています。いわゆる“年収300万円従業員”です。家族と過ごす時間、趣味の時間などとバランスをとることに価値観を見出します。
また、このバランスをとることへの選択肢は、人生のフェーズによって価値のある非金銭的報酬に成りえます。例えば、仕事が8割でプライベートが2割という仕事中心の生活をしていた従業員がいきなり、家族の介護が必要となって仕事を5割にせざるを得ないことがあるかもしれません。妊娠、出産、育児なども同様です。そのギアチェンジができることも報酬です。

<組織文化・対人関係>
楽しく働ける職場・組織文化が、従業員にとって何ものにも代え難い価値をもちます。堀場製作所の社是は「おもしろ、おかしく」ですが、この社是はこれからの非金銭的報酬では重要なキーワードになります。繰り返しになりますが、これからの人事労務環境は、80%の人が賃金の毎年の上昇は望めず、また、多くの人の仕事は変わらず、脚光を浴びることもありません。しかし、企業を支えているのは、8割の賃金の上がらない現場の従業員です。どうやったら、彼(彼女)に楽しんで働いてもらえるでしょうかー。

以下、「学習と成長機会」は、説明するまでもありませんが、正規従業員、非正規従業員共に同じ研修を受けたり、同レベルの社内検討制度を導入することが効果的です。「労働環境」とは、オフィスの雰囲気や立地など、いわゆる働く環境のことです。研究開発職などは、研究に没頭できる設備や環境は大きな非金銭的報酬です。

「安定・雇用保証」は今ではとても価値のある非金銭的報酬となりました。年収200万円ぐらいでも安定して雇用を保証してくれるのであれば価値がある時代です。契約期間の定めのある契約従業員やパートタイマーで、よくやってくれている人がいれば、契約期間の定めのない従業員にすることも非金銭的報酬としては有効です。

(非正規従業員の非金銭的報酬をチェックしよう)
    金銭的報酬(お金の報酬)と非金銭的報酬(心の報酬)の両立した報酬設計をしていく必要があります。特に金銭的報酬が望めない場合は、非金銭的報酬で報いていくことが必要です。非正規従業員の「報われ感」の現状を認識してみましょう。

別添『非金銭的報酬「報われ感」の創造チェックシート』参照

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