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ライバル会社への情報漏洩を防げ!
─これは困った!顧客を奪って転職・独立─

従業員が顧客を奪って独立する、ライバル会社へノウハウを持っていく――。考えただけでも腹が立ちます。恩を仇で返すとはこのことです。しかし、現実にはそのような事案が横行しています。私はこの問題はどこの会社で起こってもおかしくないと考えています。会社にとって最もダメージが大きいのは、“経営幹部の退職による情報漏洩”です。そこで私は人材流出・情報漏洩から企業を守るための方法を提案したいと思います。具体的には、@役職手当の一部を「競業避止手当」として支給する、A競業避止の特約契約書を締結する、というものです。


(経営幹部の突然の退職と顧客喪失)
A社は従業員250名の食品製造業。大手食品メーカーの受託製造が売上の半分を占めます。業績は昨年赤字に転落してしまい非常に苦戦を強いられています。そんなある日、さらに追い討ちをかけるような事件が起こりました。その受託製造部門の部門長B氏(50歳)が突然退職願を出してきました。以前から4代目のA社の社長と折り合いがつかなかったとのことです。B氏は優良な大手取引先との関係を一手に担っていますので、社長はなんとか慰留に努めましたが、B氏の退職の意志は変わりません。

その1ヵ月後、なんとB氏はA社のライバル企業C社に転職をしたことが判明しました。A社にとってC社は目の上のたんこぶのような存在でした。B氏はそれまでの人脈を使って、C社の強みをアピールし、元のA社の弱みを鋭く指摘する営業を展開し始めました。このような営業攻勢により、さらにA社はシェアを減少させてしまいました。

A社の社長は、その後、顧問弁護士と相談しました。B氏を相手に訴訟を起こすためです。A社の就業規則には、「退職後に同業他社に就職したり、競業する事業を起業してはいけない」と記載されていました。「就業規則違反」であると訴えようとしたのです。

しかし、顧問弁護士は。「職業の選択は憲法で保障されており、訴訟しても勝てる見込みは薄い」という見方をしました。A社の社長は「飼い犬に噛まれたとはこのことだ!」と怒りを抑えきれません。

(就業規則に定める競業避止はムダなのか?)
A社にように、就業規則において「退職後に同業他社へ就職したり、会社と競業する事業を起業してはいけない」と、多くの会社が定めています。しかし、争いになったときにこれは殆ど意味がありません。A社の顧問弁護士の見解のように、職業の選択の自由は憲法で保障されているからです。しかし、就業規則違反として損害賠償を認めた判例もあります。

学習塾を経営する会社において、従業員の退職後3年間の競業避止義務を規定した就業規則がある場合で、2名の講師らが退職後近辺で別の学習塾を開くため、12名の講師に働きかけて、そのうち5名の講師を引き抜き、生徒全員に勧誘してその約半数を獲得するなどという事件で、就業規則違反として損害賠償を認めた。(アーク進学塾事件:平成2年4月17日東京地裁)

つまり、上記の例のように相当悪質であれば就業規則の効力はあるのですが、一般的な事案はこのような極端のものではありません。多くの事案は、その損害が明確ではありませんので、会社が「泣き寝入り」をすることが通例となっています。

(競業避止の特約契約書を締結しよう)
 下級審判例ですが、注目すべき判例があります。この判例は競業避止を定めるにあたって、考慮すべきポイントが網羅されています。

「かかる退職後の競業避止が有効となるためには、次のような要件の対象労働者自身との特約が必要とされている。すなわち、@製造や営業の機密の中枢にたずさわる者についてAその秘密が保護するに適法なものであって、かつB特約をもってする限りにおいて有効であり、更に特約の内容については、(1)制限期間を限定し、(2)対象地域について定め、(3)対象職種や業務を限定し、(4)かかる制限の何らかの代償(研究手当、役付手当にその趣旨が含まれていればそれでもよい)が支給されていることが要件になる(フォセコ・ジャパン事件:昭和43年10月23日奈良地裁)

1) 競業避止は営業機密に触れる人に対して課すことができる
退職後に競業避止の義務を課すことができると聞けば、全従業員、場合によってはパートに至るまで競業避止の義務を課したくなるのが経営者です。しかし、それはできません。“営業機密”を握ることができる立場に限定されているのです。「機密を保護するに値するもの」の概念ですが、これは不正競争防止法第2条1項8号に定める「営業機密」と同義です。この「営業機密」というのは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有効な技術上又は営業上の情報であって公然と知られていないものを言います。つまり、競業避止の義務を課すとしても、それは経営の中枢の立場にいる人間に限定されるのです。中小企業で言えば、少なくとも課長以上の管理監督者の立場以上の者と言えるでしょう。

2) 代償措置として「競業避止手当」を支給する
上記の判例では、「かかる制限(競業避止の制限)の何らかの代償(研究手当、役付手当にその趣旨が含まれていればそれでもよい)の支給されていることが要件となる」ということになっています。しかし、役付手当に含まれるとしたのでは意味が曖昧になってしまいます。そこで、私はその手当の意味を明確にするために、役付手当の一部を「競業避止手当」として支給することを提案したい。
競業避止手当の金額はいくら位が妥当でしょうか?オーナー中小企業においては、課長以上を営業機密の中枢に触れるものとしないと合理性を保つのが難しいと思います。また、課長以上は一般的に管理監督者ですので、当然、時間外手当はありません。時間外手当がつく係長との賃金逆転現象を防止する意味も込めて以下のような設定はどうでしょうか。

競業避止手当 役職手当 役職手当相当額計
部長級 2万円 12万円以上 14万円以上
課長級 1万円 7万円以上  8万円以上

就業規則改革


3) 退職後の「競業避止のための特約契約」を結ぼう
私は経営幹部、課長以上の役職者には「競業避止のための特約契約」を締結することをお勧めします。管理職に就任したときに同時に締結するのです。

上記の判例によれば、有効な特約の内容のポイントは、「(1)制限期間を限定し、(2)対象地域について定め、(3)対象職種や業務を限定」することでした。この特約契約は常に憲法の職業選択の自由と会社側の必要性との観点のせめぎ合いになります。ですから、会社側の合理的な必要性が認められ、そのための競業行為の制限が妥当なものでなければなりません。不相応な制限を課すものは、従業員の職業選択の自由を不当に奪うものとされ、公序良俗に反し、民法90条により無効とされてしまいます。

したがって、退職後の制限期間を設ける必要があります。上記判例では退職後「2年間」という期間設定が行われており、その期間が比較的短期であり、相当の範囲として認められました。

また、対象地域を定める、対象職種や業務を限定することも重要です。その制限地域、制限業務・職種が狭ければ狭いほど、従業員職業選択の自由は広がるからです。

率直なところ、このような特約契約書を結びさえすれば、会社側が必ず勝てるとまでは言えません。しかし、締結しないよりはするほうが自社の企業防衛に繋がることは間違いありません。この特約契約書は幹部従業員に対する教育的効果が大きいようです。

「退職後の競業避止義務等に関する特約契約書」をご参照下さい。

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