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オーナー社長のための解雇講座
─解雇するときに、どんな点に注意すべきか?─

 

人をクビにする、──これは遭遇してみないとわからない社長の試練の一つです。人を切るときに、その社長のリーダーシップやマネジメントの性格がよくわかります。組織を作っていくうえで、解雇する能力は、人を採用したり、配置したりする能力と通じるものがあります。そこで私は経営労務という側面と法律という側面から、解雇するときのコツを述べてみたいと思います。具体的には、@切られる人の立場になって考える、A切られる人を見る立場(残る人の立場)になって考える、B法的プロセスをしっかり押さえる、というものです。

(業績不振のため従業員を解雇 トラブルへ発展)
 A社は従業員160名の総合印刷業。最近、業績が急速に悪化しました。そこで固定費を削減するため58歳の男性従業員Bさんを解雇しました。解雇されたBさんは勤務35年の古手で、妻と3人の子供がいました。高校生が1人に中学生が2人でした。勤務年数が長いので、賃金(月給40万円)は一般従業員の中で最も高いものでした。
しかし、お人柄はいいのですが、働きぶりはいまひとつで、この厳しい経営環境下で40万円をもらうにはふさわしくない仕事ぶりであることが解雇の本当の理由でした。A社は、5月1日にBさんを呼んでこう言い渡しました。「30日後の5月31日付けで辞めて欲しい」

「退職金は会社都合で計算した金額800万円に、さらに200万円を上乗せする」

Bさんにとってその解雇通告は思いがけないものでした。「そんなバカな。なぜ私が‥。世の中の流れは65歳までの継続雇用ではないか!解雇の理由を教えてほしい」と怒り出しました。

それに対して会社側は、「君はIT化が進む印刷業界のトレンドにはついていけない。もっと自分にあった職場を探してほしい。」

Bさんは突然の解雇がよほどショックだったらしく、その翌日から出社しなくなりました。できるだけ有給休暇を消化するというものでした。社内には一気にその話題が広がりました。誰からも好かれる性格のBさんでしたので、「会社のやり方はひどい!散々こき使っておいて、年をとって使い物にならなくなったら廃品のように捨てるのがこの会社だ!」「こんな冷たい会社では安心して勤務できない」などの意見が広まり、社内の雰囲気はとても悪くなってしまいました。

会社に内容証明郵便が送られてきたのは、Bさんに最後の賃金と退職金を支払った1週間後のことでした。内容証明の差出人は弁護士事務所でした。Bさんは1人でも加入できる労働組合に駆け込んだのです。弁護士はその労働組合に所属している人でした。
内容証明郵便の内容は次のとおりでした。

「長年にわたり真面目に勤務してきたBさんを何の理由もなく、突然解雇したことは解雇権の濫用。次の条件に応じない時は不当解雇を理由として訴える。その条件とは、

1) 和解金として700万円を支払う
2) 残った有給休暇を全部買い取る
3) 離職票を解雇扱いにする
4) 解雇理由書を書面で出す
5) 30日分の解雇予告手当を出す

A社は、この内容証明郵便に対する回答を出しませんでした。するとBさんが加入した労組から団体交渉の申し入れが来ました‥。

(切られる人の立場になって考えよう)
労務は心理学です。もし自分が相手の立場だったら、どう感じて、どう行動するかを想像することです。Bさんは晩婚でしたので、57歳でありながら、まだ中学生と高校生の子供がいました。Bさんはこれから益々経済的に負担がかかることは間違いなく、65歳になるまでなんらかの収入が必要な人です。そんな人を定年目前で解雇すれば恨みが残っても不思議ではありません。

このBさんの場合は、一般従業員でありながら、40万円の賃金は確かに問題です。事情を十分に説明し本人の了解を得て、1年目は35万円に賃金減額、2年目は30万円に賃金減額してはどうでしょうか。賞与の支給は会社の裁量ですので、賞与はゼロとします。定年を迎えたときには、本人が希望すれば、時間給800円〜1,000円程度で雇用を継続してあげるといいと思います。

(残る従業員の立場になって考えよう)
「良いリーダーのやることは紳士的でなければならない」といわれます。紳士的とはどういうことでしょうか?「人を切る=紳士的でない」ということでは決してありません。逆に、従業員は自分のリーダー(社長)が、無知、不決断又は弱さから、無能の人や傲慢な人を甘やかすことを望んではいません。解雇すべき人はしっかりと解雇してほしいのです。しかるべきときに解雇もできない弱いリーダーに、誰もついていこうとは思いません。リーダーとして弱いことは最低なのです。人を解雇することは、社長のリーダーシップに課せられる最も厳しい試練といえます。しかし、その解雇のプロセスはマネジメントの本質にかかわります。残る従業員がみんな見ています。誰が、いつ、どんなふうに、どんな理由で解雇されるのか−。その行動が紳士的で公正で信頼できるものかを注目するのです。

A社はどうやら、周囲の従業員を“敵にまわす”“信頼関係を損ねる”結果となってしまったようです。たとえ、働きぶりがよくなくても35年勤務した人を30日前の予告と若干の退職金の上乗せで解雇すれば、非情な印象を与えてしまうのは仕方のないことです。つまり、A社の社長は“紳士的”ではなかったのです。その後もA社では「明日は我が身」「血も涙もない会社」など従業員間の動揺は隠せませんでした。

(解雇するときの9つのキーワード)
労務で問題がおこるケースの多くはこの「解雇問題」です。労務問題は起こってしまったら負けです。その収束に多大な時間と労力を費やすからです。“どうやって問題が起こらないような初動をするか”です。たとえ、問題が起こってしまい、出るところへ出られても、“なんとか抗弁ができる状態に処理をしておく”ことです。

そこで、多数の解雇トラブルを処理してきた経験から、解雇のときの法的キーワードを以下にまとめてみました。

@ 退職届
A 解雇理由と就業規則
B 解雇回避努力
C 始末書
D 解雇予告(手当)
E 退職金
F 年次有給休暇
G 離職票
H サービス残業


≪退職届≫
9つのキーワードの中で最も重要なのは、「退職届」です。とにかく、退職届を出していただくことに限ります。退職届があれば、後から「不当解雇である」と訴えられる可能性がないからです。A社のBさんのケースでも、もちろんBさんが退職届を出す可能性はあまりありません。しかし、以下のように交渉したい。最初から会社都合で計算した金額800万円にさらに200万円上乗せする」と“満額回答”をしてしまっています。しかし、この200万円は、労働基準法上では支払う必要のないものです。

A社は本当はこう条件提示すれば良かったのです。「退職届を出してくれないか?そうすれば200万円を上乗せする。離職票は解雇扱いにする」と。

ひょっとしたら、退職届を出してくれたかもしれません。そうすれば、労組に駆け込まれたり、訴えられたりすることもなくなります。

≪解雇理由と就業規則≫
平成16年1月に労働基準法の改正により、同法第18条の2で「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認めらない場合が、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています。不当解雇だと言われないようにするためには、次の要件が必要です。

@ 解雇理由が法令に違反していないこと
A 就業規則に根拠となる定めがあること
B 解雇が権利の濫用にあたらないこと
C 解雇が公序良俗に反しないこと
D 解雇が労働者との「信義則」に反しないこと

この中で特に重要なのは「A就業規則に根拠となる定めがあること」です。つまり、就業規則において解雇理由が明記されていなくては解雇したくても解雇できないわけです。


≪解雇回避努力≫
訴訟になったときは、会社が解雇を回避する努力をしたかどうかが問われます。つまり、“解雇は最終手段”であるということです。たとえば、本当に働きぶりが悪い場合は、きちんと指導をしたのかどうかが問われます。解雇を回避する方法はいろいろあります。まずは、配置転換です。A社のBさんが他の仕事で頑張ってくれれば、解雇理由は存在しないはずです。また、配転などで仕事の内容が変わったのであれば、それにともなって賃金を下げることも可能です。本人の同意があれば賃金を減額できます。

≪始末書≫
前の≪解雇理由と就業規則≫の項でも述べたように、やむを得ず解雇する場合は解雇理由が問われます。その場合において、会社はその理由を証明する事実が必要なのです。解雇には3種類あります。

普通解雇=従業員の債務不履行を理由とするもの
懲戒解雇=企業秩序の違反に対して罰則として解雇するもの
整理解雇=経営不振により従業員数の削減を行うもの

整理解雇の要件は法的に大変厳しいものですので、一般的には「普通解雇」「懲戒解雇」のいずれかになります。A社のBさんの場合は「普通解雇」です。普通解雇は、@能力不足、A勤務態度不良、B協調性の欠如 などの事由で行われるのが一般的です。会社はこの事由が存在していることを始末書・警告書を残し証明していく必要があります。始末書の残し方は「始末書・警告書の心と技とシステム」をご覧下さい。

≪解雇予告(手当)≫
これはみなさんよくご存知のとおり、解雇する場合は、労働基準法の定めに基づき、30日前に解雇予告をするか、平均賃金の30日分の解雇予告手当を支払うことが必要となります。解雇予告をすると、人によっては出社してこなくなることがあります。そのときは解雇予告手当を支払う必要はありません。しかし、現実的にはまるくおさめるために解雇予告もして、さらに30日分の解雇予告手当も支払うということが無難なケースが多いです。

≪退職金≫
当たり前のことですが、退職金は「会社都合」で支給することです。≪退職届≫の項で述べたような上乗せ退職金などはその場で、現金で「退職届」と交換で手渡してもいいでしょう。やはり、辞めるときはまとまった「お金」が必要です。中小企業の退職金制度改革において、「退職金の前払い制度」や60歳からしか受給できない「確定拠出型年金(401K)制度」に反対する理由はココにあるのです。

≪年次有給休暇≫
本来、年次有給休暇(年休)は、在職中にしか使用する権利がありません。A社のBさんのケースでは5月1日が解雇日である5月31日までの間であれば使用することができます。しかし、それ以降は、年休が残っていたとしても使用する権利がありません。しかし、退職時にもめた従業員はほぼ100%「年休を買い取ってくれ!」と言います。彼らの言い分は「年休も取らずに頑張ってきた」「年休は既得の権利だ」ということでしょう。ですから、現実的な対策としては、残った年休分をすべて買い取ってあげることをお勧めします。5月31日時点で仮に10日分残っていたとします。それならば、5月分の賃金に10日分を上乗せすることです。

年休の買取りは基本的には禁じられていますが、退職時の買取りは本人の利益になるものですので問題はおきません。

≪離職票≫
離職票に記載する離職理由ですが、できれば退職届を受け取ったうえで、A社のBさんのケースは「解雇」又は「退職の勧奨」とします。どちらであっても、本人は失業給付において一番有利な恩恵を受けることができます。会社側が事実と異なる離職理由を記載しようとしてもムダです。たとえば、現在受給中の助成金に影響するなどの理由で事実を曲げることは許されません。現在の離職票は「異議有り」という欄がありますので、それができない仕組みになっているからです。

≪サービス残業≫
昨今の会社と従業員の関係は誠に刹那的です。「長年お世話になった会社」というよりも「長年働いてやった会社」という感情の人もいるようです。特に退職時にもめると「会社から取れるものは全部取ってやれ!」という行動に出ることが多い。その筆頭は「未払いの疑義がある残業代(いわゆるサービス残業代)」の請求です。直接お金の問題ですので、請求するほうも必死です。会社は従業員を解雇する場合、サービス残業の疑いがないか、出ることころに出られても大丈夫か、を事前にチェックしなければ大きく足元をすくわれることになります。その退職者だけでなく、過去に退職した従業員までが便乗して会社に「在職中のサービス残業代をよこせ!」と請求してくることもしばしばですから。

 


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