中途採用時の初任給の決定方法
─若年労働力を確保するために─
「10年後、この企業は存続しているのだろうか?」と年齢の入った賃金データを拝見して不安になることがあります。業種によっては若年労働力がまったく不足している企業があります。いざ若年労働者の採用活動を始めてもサッパリいい人がきません。5、6年前は人材過剰、しかし今は一転して人材不足です。特に不足感があるのは18歳〜35歳未満の若年労働者です。
ですから、この層の中途採用の初任給が高騰し始めています。しかし、中小企業は社内の在籍従業員とのバランスを考えると極端な初任給は提示できません。そこで私は将来の幹部候補生を確保するための初任給の設定方法を提案したいと思います。具体的には、@中途採用者には年俸制を採用する、A60歳以降の継続雇用者の賃金を見直し、その原資で若年従業員の賃金を底上げする、というものです。
(求職者は年収いくら?を見て応募する)
ご覧頂きたいホームページがあります。それはリクルート社の「リクナビ」です。これはネットによる求人情報提供業としては圧倒的な存在になっています。
このページの検索条件の「年収例」という項目は以下のようになっています。
◎ 希望しない
◎ 年収300万円以下
◎ 年収301万円以上 500万円以下
◎ 年収501万円以上 700万円以下
◎ 年収701万円以上1000万円以下
◎ 年収1001万円以上
求職者は月給がいくら高くても賞与がほとんど出ない会社があることを知っているからです。やはり、気になるのは年収であり、その年収をきっちりと提示しなければ労働市場では不利になるのです。
(これは困った! 若手営業経験者が採れない)
A社は従業員160名の製造販売業。20代から30代前半の幹部候補生の営業マンの採用活動に明け暮れています。A社の求人欄には年収300万円〜400万円と記載してありました。そこに28歳で営業経験もある、キラリと光るBさんが応募してきました。会社側はすぐに気に入り、トントン拍子でBさんを最終面接まで進ませました。しかし、最終面接終了後、内定を出そうと思った矢先にBさんのほうから断りの電話を入れてきました。それはA社が最終面接のときに、「年収350万円」を提示したことが大きな理由のようでした。どうやら、Bさんは複数の会社から内定をもらっていたようです。「400万円なら入社してもいいけど‥」や「他社の不採用の保険として‥」のような考えであったのではないか‥と総務部長はガッカリとした様子。「5年前なら絶対に採用できていたのに‥。ウチの賃金体系や支払能力からいって350万円が精一杯」と悔しそうに漏らしました。
(良質な中途採用者を確保するコツ)
《その1》自社の賃金バランスにこだわりすぎてはいけない
28歳の営業マンなら、基本給が20万円、営業手当5万円、賞与は基本給2ヵ月分(年収340万円)でないと社内のバランスが崩れる―。しかしどうしても欲しいという人材が「年収400万円は欲しい」と言えばどうするか。私は今後の採用コスト・機会損失などを考慮し、コレという人は400万円を提示してはどうかと思います。まず採るのです。
《その2》中途採用者こそ“年俸制”にしよう
28歳のどうしても採用したい営業マンに年収400万円を支給したいとします。しかし、賃金体系が崩れるのが悩みです。そこで私は中途採用者こそ年俸制を採用することを提案したい。年俸制には「年単位で報酬を決定する」しか意味を持ちませんので、全従業員に適用することはあまりお勧めはしていません。しかし、中途採用時の初任給提示はまさに「年収でいくら?」が大事になってくるのです。私のいう年俸制とは以下のとおりです。
年俸制=年単位で報酬を決定する。月給と賞与を分けた場合、賞与は賞与支給日に在籍していなければ支給されない。
(つまり、日割計算は行わない)
28歳の営業マンの賃金について、基本給20万円、営業手当5万円、賞与は基本給2ヵ月分(年収340万円)が社内相場だとします。つまり、あと60万円の上乗せが必要です。
2つの方法があります。@月給に上乗せする方法、A賞与に上乗せする方法です。両者ともそのコンセプトは同じです。期待どおりの働きをしてくれた場合は結構ですが、期待はずれだった場合はカットしたい。そのために基本給に入れて自社の賃金体系をこわしてしまうのではなく、月給に上乗せする「初任給特別調整手当」又は賞与に上乗せする「初任給特別調整賞与」として支給したいものです。
雇用契約書には次のように記載します。
「初任給特別調整手当(又は初任給特別調整賞与)は、優れた職務能力を期待して今期の年俸に加算して支給するものです。ただし、会社が優れた職務能力を発揮できていないと判断した時はその支給を打ち切ります」
《その2》“初任給特別調整賞与”として支給しよう
私は前述の例でいうと、基本給の2ヵ月分40万円を「保証賞与」とし、差額の60万円を「初任給特別調整賞与」として支給することを提案します。年収のバランスは崩れますが、賃金体系はなんとか保つことができるからです。この賞与は賞与という名前がついていますが、特別に保証されている賞与であり、会社業績や本人成績が万一ふるわなくても保証されます。ただし年の中途で退職した場合は、その賞与支給日に在籍していなければ支給はされません。
賃金の提示は以下のようになります。
基本給 20万円×12ヵ月= 240万円
営業手当 5万円×12ヵ月= 60万円
保証賞与 20万円× 2回= 40万円
初任給特別調整賞与 30万円× 2回= 60万円 計400万円
(夏冬)
「保証賞与」についても今期は原則として保証された賞与とします。次年度以降は従来の賞与査定を行い支給することとします。
本人が期待した成果を発揮しているかどうかを判断のうえ、前年の年収をアップさせる(ダウンさせる)のはこの「初任給特別調整賞与」を活用します。
会社が期待する評価が得られれば、長期的には「初任給特別調整賞与」が一部月給に組み込まれ、賞与は通常の賞与査定(業績賞与)の金額のみで支給されるようになることが望ましいのは言うまでもありません。
たとえば、3年間で次のように推移することになります。
◎1年目 月給+保証賞与(希望年収を維持する)=年俸制
◎2年目 月給+業績賞与(調整は含むが成果に応じて賞与に差をつける)
◎3年目 自社賃金体系による月給+メリハリのある業績賞与
《その3》コレと思ったらその場で社長が握手しよう
良い人材は誰が見ても良い人材なのです。我が社に面接に来る人材で、ピンと来る人であればどこか他で面接中か、既に内定を貰っていると考えたほうが良さそうです。中小企業の場合、社長が最終面接を行うのが普通です。コレ!と思う人は「では、後日ご連絡します」という畏まった対応ではなく、その場で具体的な話を提示し、口説き落とし、最後に握手をして「一緒に頑張ろう」とその熱い想いを伝えるのです。
(若手にしっかり昇給し賃金水準を高めておこう)
中途採用で賃金バランスを崩さないためには、社内の若手従業員の賃金水準を高めていく努力が欠かせません。そのためにはしっかりと毎年昇給しなくてはいけません。以下は京都の20代の若手従業員の賃金モデルです。このモデルは「30歳、妻、子供1人有り、賃貸マンション住まい」の従業員がソコソコ生活していくために必要な手取りから逆算したものです。
京都府高卒初任給平均16万2千円から残業代も含めてですが、29万2千円まで12年間で13万円アップする必要があることがわかります。

(60歳以降の継続雇用者の賃金を見直し、若手昇給の原資にあてよう)
60歳以降の賃金は現役時代の80%と決めている会社があります。これは「過去の功労に対する恩恵」という考えが根強く反映されています。しかし、これでは65歳継続雇用義務化時代に対応できません。私は60歳以降の継続雇用者の賃金は「時価主義」でいくべきだと思っています。60歳定年で再雇用ですから、「新規雇用」なのです。「今この人を雇用するとしたらいくらで雇用するか」又は「今、この人が職安に並んだらいくらで雇用されるか」という視点で決定すべきです。
売上・利益低迷時代には、若手の昇給原資がなかなか作り出せません。ですから、今後ますます増加する60歳以降の継続雇用者の賃金を合理的に決定し、減額見直しすることでその原資を絞り出すことが政策的に大切になってくるのです。

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