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福田秀樹の多事争論経営者

人に優しすぎると

人に優しい、人に寄り添う姿勢は、思いやり、誠意、真心などの表現として人生観としてとても大切なものです。この考え方の根本なくして、会社経営、家庭経営、人生経営は成り立たないでしょう。

 

しかし、私が携わる法律と人事の分野で、人や個人を尊重するあまり、全体をとらえられず、変な意思決定が行われているのではないか、と思うケースにしばしば出会います。

 

まず、一つは裁判官の心証です。日本は解雇が著しく制限されている国だというのはご存じかと思いますが、こんな事案でも懲戒解雇が無効になるのか、という事例に遭遇することがあります。全国的に有名になった以下の事例をあげます。

 

(朝日新聞 2015年12月25日)

電車内で痴漢をしたとして略式命令を受けた東京メトロの駅員の男性が、諭旨解雇されたのは不当だと訴えた訴訟で、東京地裁は25日、解雇を無効とする判決を言い渡した。石田明彦裁判官は「解雇は重すぎ、手続きにも問題がある」と述べ、解雇された昨年4月以降、1カ月あたり約36万円の支払いも命じた。 判決などによると、男性は2013年12月、出勤のため乗車していた東京メトロ千代田線内で、当時14歳の女性の尻などを服の上から約5分間触った疑いで逮捕された。略式起訴され、罰金20万円の略式命令を受けて納付。同社は男性を諭旨解雇とした。 訴訟で同社は「痴漢を防止すべき駅員であり、厳しい処断は当然」と主張したが、判決は「行為の具体的状況から悪質性は比較的低い」と指摘。同社が社員の痴漢への懲戒処分で、起訴(略式起訴)だけを基準とし、悪質性や処分歴などを考慮しないのは「処分の決め方として不合理にすぎる」とも述べ、解雇は無効と判断した。

 

簡単に言いますと、裁判官も「地下鉄職員として不適切な行為であるということは百も承知です。でも、解雇までするのは、「かわいそう」じゃないですか。また、「会社側での手続きも不十分」でしょ。

 

ポイントは解雇までするのは「かわいそう」です。裁判官というのはとても人に優しいのです。だから、その前提で、会社の小さな非を事後的に問うて、労働者側を勝たせる。

 

でも、裁判に負けるということは、この「わいせつ駅員」が職場に堂々と、オレは解雇までされることはなかったといって戻ってくるのです。会社経営にとって、これって恐ろしくないですか。中小企業経営はこのようなことが起これば組織がおかしくなることは間違いありません。

 

もう一つは人事担当者です。人事コンサルタントと言われる人や、社労士さんもこの傾向を感じることがあります。職場を活性化させるためには、社員個々人のやる気が大切だ、そのためには社員の心持ちに十分な配慮を行うべきだ、という論調です。全く異存はないのですが、人事管理の専門家の関心が「個人」にありすぎ、会社全体や部門全体にその関心が薄すぎるのです。つまり、経営の全体をおさえたうえでの、個人への関心ではないため、人事評価のための人事評価、目標管理のための目標管理、年功主義に流れる賃金管理による昇給原資の不足がどうしても起こってしまい、結果として「組織全体」の活力が奪われ、組織の目的・目標が達成されない。

 

人に優しい、従業員重視、この思想なくして会社経営は成り立たない、でも、これを声高に叫び、アドバイス・推進する人物がどれだけ全体をおさえているかは十分に注意しておく必要があるのです。

 

本当の優しさや人間尊重は時には厳しいものでもありうるのです。

 

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