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福田秀樹のWEBコンサルティング人事評価と給与制度づくり

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同一労働同一賃金時代の賃金管理

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横浜市の運送会社を定年後、有期契約で再雇用された運転手3人が「仕事内容は全く変わらないのに、賃金が引き下げられたのは理不尽だ」として起こした訴訟の判決で東京地裁は引下げを違法と判断し、平成28年5月13日、運送会社に定年前と同水準の賃金を支払うよう命じた。判決理由は「コストの増大を避けつつ高齢者の雇用を確保するために、再雇用後の賃金を下げること自体は合理的だが、仕事内容が同じの場合は賃金格差があってはならない」「労働契約法第20条違反」と指摘した。高裁の判断によっては、企業は大きな政策転換が迫られる可能性は否めない。

本来、中小企業において60歳再雇用時に仕事の内容が変わるというのは、標準的な人ではレアケースだ。役職者であった人が、役職を降りるということはあっても、ほぼ定年前と同じような仕事を同じように続けているというのが実態。一方、この敗訴した運送会社と同様に仕事の内容は同じだが、定年前の7~8割に賃金がダウンするというのも社会通念である。

日本企業においては仕事の範囲が欧米の職務記述書で限定されて、仕事内容が明確になっていることはない。特に中小企業・零細企業においては組織化の度合いが低いので、仕事に人をつけるというより、人に仕事がついている。そして、仕事にお金が張り付いている職務給(仕事給)ではなく、人にお金をつける能力給や属人給で運用されているのが一般的だ。つまり、欧米のような同一労働同一賃金はそぐわない。

しかし、いま政府は「働き方改革」「非正規労働者の待遇改善」という目的を果たす手段として「同一労働同一賃金」へ政策的な舵をきっている。同一労働なのに同一賃金ではない場合、どのような待遇差が合理的であるか、又は不合理であるかのガイドラインを策定される予定だ。また、その不合理な待遇差に関する司法判断の根拠規定の整備が行われ、その待遇差に関する会社の説明義務の整備なども求められるといわれている。

また、いま、最低賃金も急ピッチがあがりつつあり、政府は年率3%程度を目途にして、全国平均1000円となることを目指している。大阪などは1200円を超えてくるだろう。また、パート主婦を中心とした労働力不足により、マーケットの価格である賃金も上昇の一途だ。しかし、企業の賃金分配の原資である付加価値が労務コストの上昇を吸収できる程度に上昇しているか、といえば、そうではない。

 

同一労働同一賃金を声高に叫ぶことで私たちが失うものが明確になっていない。それは正社員、特に中高年の正社員の定期昇給という概念がなくなることだ。理屈上もコスト構造上もそうなる。最も年収が高かったのが35歳の時であった、という世の中がもうすぐそこに来ている。

 

日本社会・日本企業が欧米ではできなかった定期昇給をなぜ実現できたのか?それは経済が強かったという理由もあるが、それは高度成長の一時期だけの話だ。私はILO(国際労働機関)から勧告されるほど、正社員と非正規社員の待遇格差があったからこそ、正社員の定期昇給が実現できたのではないかと考える。

 

したがって、これからの賃金体系のスタンダードは「年功給と職務給のハイブリッド型」にならざるをえない、つまり、たとえば35歳までは定期昇給があるが(年功給は維持するが)、それ以後は難しい仕事を担うか、役職者としてリーダーシップを発揮しないと手当がつかない(給与は増えない)といった体系だ。

 

でも、この運用には十分な注意を要する。35歳~40歳で会社では給与は増えないが、この先もこの会社で頑張ろうと意欲をもってもらえるか。欧米では定期昇給がないのは当たり前だが、日本人の価値観・勤労観がそれを許すだろうか。努力した人、能力を高めた人を漏れなく評価していく仕組みが求められる。賞与の仕組みを含め、人事制度の運用には細心の注意を払う義務が会社にはある。

 

冒頭の運送会社の裁判例は、日本型賃金システムの「終わりの始まり」だ。

 

若者が望む「ホドホドの仕事」「ソコソコの給与」「長時間労働は悪」「定額残業手当はブラックだ」という価値観とあいまって、企業の労務政策の転換も待ったなしのところにある。

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